つまんでわかる?ツルゴール反応 〜皮膚が教えてくれる脱水サイン〜
ある夏の日、外来で高齢の患者さんの手を握った瞬間、ふと違和感が…。
皮膚をつまんで離しても、なかなか元に戻らないのです。
「もしかして…脱水?」
そう、皮膚は思った以上に多くの情報を私たちに教えてくれます。
今回は、看護現場でよく使う観察法「ツルゴール反応」について、やさしく・楽しく・でも根拠もしっかりとお伝えします。
ツルゴール反応とは?
ツルゴール反応(skin turgor)は、皮膚を軽くつまんで離したときの戻りの速さ(張り・弾力)から、脱水や皮膚の状態を評価する方法です。
正常:すぐに元に戻る(目安:1〜2秒以内)/ 異常:戻りが遅い(目安:2秒以上)。
語源の “turgor” はラテン語で「膨らみ・張り」を意味します。皮膚が元気かどうかを“触って”知る、シンプルだけど奥が深い観察法なんです。
観察の方法とコツ
観察部位の選び方
- 若年〜中年:手背(手の甲)、前腕
- 高齢者:鎖骨上・前胸部・前腕(手背のみは誤判定の恐れ)
- 乳幼児:腹部、大腿内側
理由:高齢者はコラーゲン・弾性線維の減少で手背の弾力が低く、脱水がなくても“戻りが遅く”見えることがあります。体幹部での評価が望ましい場面が多いです。
やり方(手順)
- 観察部位の皮膚を親指と人差し指で軽くつまむ(2〜3秒保持)
- 指を離し、元に戻るまでの時間を確認する
- 同部位で左右差、反復時の変化がないかも見る
評価時の注意
- 浮腫・熱傷・瘢痕部位は評価に不向き
- 室温・発熱・末梢冷感で皮膚の硬さは変化する
- 必ず他の所見(口腔粘膜、尿量、バイタル)とセットで判断する
ツルゴール反応が低下する主な原因
脱水
- 経口摂取不足
- 発汗過多(発熱・高温環境・運動)
- 嘔吐・下痢・発熱による体液喪失
加齢による皮膚の変化
コラーゲン・弾性線維の減少で弾力が低下。手背は過小/過大評価のリスクがあるため、鎖骨上など体幹部評価が有用。
その他の病態
- 栄養不良(皮下脂肪・コラーゲン低下 → 弾力低下)
低アルブミン血症では浮腫が出やすく、ツルゴールの判定に影響。栄養状態とむくみの有無をあわせて評価しましょう。
- 慢性疾患:腎不全(体液貯留/利尿薬に伴う脱水)、糖尿病(高血糖による浸透圧利尿)など
ツルゴール反応の判断基準
正常
- 皮膚をつまんだ後、すぐに元に戻る(1〜2秒以内)
皮膚に水分が十分保持され、弾力が保たれている状態です。
異常(ツルゴール低下)
- 皮膚の戻りが遅い(2秒以上)、しばらく“テント状”に残る
脱水の可能性が高まります。高齢者や小児では進行が速いことがあるため、迅速な対応が必要です。
→ 脱水とは?
臨床の“探偵ごっこ”|単独で決めつけず、組み合わせで推理
- ツルゴール遅延 + 口腔粘膜乾燥 + 尿量減少 → 脱水の可能性(細胞外液減少型)
- ツルゴール正常 + 浮腫 + 低アルブミン血症 → 低タンパク血症を疑う(脱水とは限らない)
重要:ツルゴール単独では確定診断不可。血圧・脈拍・体温・意識・尿量などのバイタル、血液検査(BUN/Cr比、Na など)もあわせて評価を。
事例で学ぶアセスメント
事例(記録例):
皮膚ツルゴール:鎖骨上でつまみ、戻りに4秒要する。
口腔粘膜乾燥あり。尿量800ml/日(前日より減少)。
体温 37.8℃、血圧 102/64mmHg、脈拍 96回/分、SpO₂ 96%(room air)。
正常値との比較
- ツルゴール:正常1〜2秒 → 今回4秒で遅延
- SpO₂:目安95%以上 → 今回96%(正常)
- 尿量:成人 約1,500ml/日 → 今回800ml/日(減少)
アセスメント(推論)
- ツルゴール遅延+粘膜乾燥+尿量減少 → 脱水の可能性が高い
- 発熱による発汗・経口摂取低下が背景か
- 循環動態は現時点で大きく破綻していないが、早期の補水・原因精査が必要
ツルゴール反応低下時のケア(看護の視点)
日常的な観察
- 尿量・口腔粘膜・皮膚温/冷感・意識レベルの連続評価
- バイタル(血圧、脈拍、体温、SpO₂)と合わせて総合判断
水分管理
- 可能なら経口補水(経口補水液など)を優先、困難なら医師へ報告し補液を検討
- 発熱・嘔吐・下痢などの原因対応(解熱、制吐・止痢などの指示確認)
- 高齢者は口渇感が鈍い → こまめな摂取の声かけ・環境調整
ツルゴール低下時の治療(参考)
経口補水:軽度の脱水
- 経口補水液・水分摂取の継続と摂取量の記録
点滴治療:中等度〜重度の脱水
- 生理食塩水や乳酸リンゲル液による補液(医師指示)
原因の特定と治療
- 下痢・嘔吐・発熱など原因疾患の治療
- 必要に応じて栄養評価を行い、カロリー・水分摂取の教育的関わり
まとめ
- ツルゴール反応は「皮膚の張り」で水分状態を読むシンプルな観察法
- 単独評価ではなく、口腔粘膜・尿量・バイタル・検査と組み合わせる
- 高齢者では評価部位の選択(鎖骨上など)と総合判断がポイント
参考文献
- 日本救急医学会. 救急診療指針 第5版. 医学書院; 2021.
- 日本臨床皮膚科医会. 皮膚科学ガイドブック. 南江堂; 2019.
- Perry AG, Potter PA, Ostendorf WR. Clinical Nursing Skills & Techniques. 9th ed. Elsevier; 2018.