パーキンソン病(PD)
中脳にある黒質の神経細胞が障害され、錐体外路症状が現れる原因不明の疾患のことをパーキンソン病といいます。65歳以上になるとパーキンソン病の発症が数倍に高まります。介護保険の「特定疾患」に指定されています。パーキンソン病は進行性の疾患であり、数年から数十年の月日が経過すると寝たきりの状態となり、全身の状態が衰弱していくことにより合併症が生じ、最悪は死に至ることがある疾患です。
原因
不明
原因は明らかになっていませんが、何らかの原因により中脳の黒質が障害されドパミンが減少します。そのことにより大脳基底核の運動の制御が障害されスムーズな運動が行えなくなります。大脳基底核にある淡蒼球内節が運動を制御しすぎることにより動けなくなります。
症状
パーキンソン病で特徴的な4大症状は錐体外路が障害されることにより現れる症状です。ちなみに錐体外路症状のみの場合はパーキンソニズムになります。
錐体外路障害(4大症状)
錐体外路症状(パーキンソニズム)では下記の4つの症状を押さえる必要があります。
・振戦(安静時振戦)
何もしていないときに手足が振るえます。しかし動作を行うと振えはなくなります。これはパーキンソン病の初期症状で有名です。
特徴:規則正しい動きで非対称性に出現します。
・筋固縮(筋強剛)
筋肉がこわばります。筋肉の動きがぎこちなくなります。
特徴:鉛管現象(関節運動に終始抵抗がある状態)や歯車現象(抵抗が断続的にある状態)がみられます。
・無動(運動緩慢)
動作が遅くなったり、動こうと思っても動けません。表情には変化がなくなり(仮面様顔貌)、声は小さく、書字では字が小さくなります。
特徴:無表情で目は一点を見つめます(仮面様顔貌)、字がだんだん小さくなります(小字症)、声も小さくなります、動作が遅くなります。
・姿勢反射障害(姿勢保持障害)
前傾姿勢になりやすいです。姿勢を保つことができず倒れやすくなります。
その他の症状
・歩行障害
上記の無動と姿勢反射障害により、特徴的な歩き方になります。初めはすくみ足になり、歩行時にうまく足を前に出すことができません。そこからすり足歩行や小刻み歩行となり、突進歩行(加速歩行)になります。
自律神経障害
「自律神経」は「交感神経」と「副交感神経」があり、自律神経が障害されることにより代表的な症状として下記のものが現れます。
・起立性低血圧
「交感神経」が優位になると血管は収縮し心拍数は増加します。「副交感神経」が優位になると血管は拡張し心拍数は落ち着きます。その調整障害により起立時に脳に血液が十分に供給されずに低血圧になります。ゆっくり動くなどの動作の工夫や弾性ストッキングの着用により対応していきます。
・便秘・下痢
「交感神経」が優位になると腸蠕動が減弱し、「副交感神経」が優位になると腸蠕動は活発になります。その調整障害により便秘と下痢になります。
・排尿障害(神経因性膀胱)
蓄尿には「交感神経」が影響し、排尿には「副感神経」が影響します。そのことにより蓄尿障害では頻尿と尿意切迫、排尿障害では排尿困難や残尿などが挙げられます。
重症度の分類
ホンヤール分類
パーキンソン病の重症度を把握するために用いられています。
0度 | パーキンソニズムなし |
Ⅰ度 | 日常生活の影響がほとんどない状態。障害は身体の片側のみ(一側性パーキンソニズム)。 |
Ⅱ度 | 日常生活に介助は不要な状態。障害は身体の両側に見られる(両側性パーキンソニズム)。 |
Ⅲ度 | 明らかな歩行障害が現れている状態。軽~中等度パーキンソニズム。姿勢反射障害あり。 |
Ⅳ度 | 自力での日常生活動作が困難な状態。 |
Ⅴ度 | 介助なしではベッド又は車椅子生活が必要な状態。 |
検査
MIBG心筋シンチ
心臓の交感神経の状態を調べる検査になります。
ドパミントランスポーターシンチ
脳のドパミン神経の残存を調べる検査になります。この検査はアイソトープを使用するため検査可能な医療機関は限られます。
CT検査、MRI検査
パーキンソン病ではCTやMRI検査では異常は見られません。しかしパーキンソン病以外の原因を否定するために必要時は行われます。
治療
薬物療法
L-ドパ、ドパミンアゴニストなどの薬物によりドパミンを補っていく。
手術療法
薬物療法を行なってもコントロールが困難な場合は、脳深部刺激療法(DBS)を行うこともあります。
ケア
症状の緩和(特にwearing off 現象やon-off現象)
転倒予防
運動機能の低下や姿勢を保持することが難しくなることや起立性低血圧により、転倒のリスクが高まります。転倒による筋骨格系の障害や骨折などによりADLやQOLを著しく下げ、寝たきりの原因になります。そのため本人と相談しながら転倒しないような関わりが求められます。
起立性低血圧の対応
自律神経障害により血圧の調整ができず、臥位から立位時に起立性低血圧を伴う場合があります。そのため、動作をゆっくり行なったり、弾性ストッキングを着用するなどで症状が起こりにくくします。
便秘と下痢の対応
自律神経障害により腸の蠕動運動が乱れ、腸の働きが低下したり、亢進したりします。そのことにより便秘や下痢になりやすくなります。そのため薬剤などにより正常な排便になるように調整を行います。
服薬指導
ドパミンのコントロールがパーキンソン病と向き合っていく上で大切になります。そのためには服薬を確実に行うことや、服薬のタイミングなどを医師と相談しながら調整していく必要があります。
運動療法
運動機能の低下や筋固縮により身体機能が低下してきます。運動機能を維持できるような関わりが求められます。