血液透析
血液中の老廃物や不要な水分を除去して血液を綺麗にしていく治療のことを血液透析といいます。これは本来、腎臓が担っている機能ですが、末期の腎不全になると腎臓の機能が十分に働かないために血液透析を用いて腎臓の機能を補っています。腎臓の機能については別記事にまとめていますので参照ください→腎臓
血液透析の目的
除水
腎臓の機能が低下することにより、尿として排泄されていた水分が身体に溜まっていきます。血液透析ではその水分を取り除いていきます。
有害物質(老廃物)の除去
腎臓の機能の低下により血液が濾過できないと、血液中に有害物質が溜まっていきます。血液透析ではその有害物質であるクレアチニンや尿素窒素などを取り除いていきます。
電解質バランスの補正
リンやカリウムなど身体に蓄積される電解質とカルシウムや重炭酸イオンなどの身体に不足する電解質を除去や補充をし電解質のバランスを整えていきます。
血液透析の種類
血液透析には4種類あります。1つ目が血液透析(HD)、2つ目が血液濾過透析(HDF)、3つ目が血液濾過(HF)、4つ目が体外限外濾過(ECUM)になります。現在は約90%が血液透析(HD)で残りは主に血液濾過透析(HDF)になります。
①血液透析(HD) HemoDialysis
大半の人が血液透析(HD)で治療をしているため、透析治療のスタンダードになります。
②血液濾過透析(HDF) Hemodiafiltration
血液透析では除去するのが難しかったタンパク質を除去することが可能になります。またより多くの老廃物の除去が可能になります。
③血液濾過(HF) Hemofiltration
血液透析と比較し身体に溜まった大きな物質の除去性能に優れています。しかし、小さな老廃物の除去は劣ります。また、血液透析(HD)と比べ血圧低下を起こしにくいため、血液透析によって血圧低下などを起こす恐れがある人、透析アミロイド症などの人には治療に向いています。
④体外限外濾過(ECUM) Extracorporeal ultrafiltration method
過剰な体液除去に対して用いる方法で、除水のみを行います。血圧の影響をほとんど受けません。
血液透析の原理
血液透析の原理は2つあり「濾過(限外濾過)」と「拡散」になります。この「濾過」と「拡散」により血液中の有害物質(老廃物)と水分が除去される仕組みになります。
濾過(限外濾過):Filtration
例えば通常のドリップコーヒーはコーヒーフィルターにコーヒーの粉を入れ、上からお湯を注ぎコーヒーを抽出するのに対し、エスプレッソは圧力をかけてコーヒーを抽出していきます。エスプレッソのような圧力をかけて物質にダイアライザを無理やり通り抜けさせる方法を濾過(限外濾過)といいます。そのことにより血液中の余分な体液(主に塩分・水分)を除去することができます。この方法により拡散では除去されにくい大きな物質の除去が可能になります。ちなみにHDFの「F」はこのFiltration(濾過)を指しています。HDと比較しこれまで除去できなかった大きな分子量の老廃物が除去できます。
拡散:Diffusion
例えばティーパックをお湯につけた時に濃度が均一となる原理のことを「拡散」といいます。 濃度が違う2種類の液体を、ダイアライザ(透析膜)という目に見えない小さな穴の空いた膜に接することにより、濃度の高いものは薄い方へ、薄いものは濃い方へ移動します。 透析ではこの濃度較差(かくさ)の性質を利用し、ダイアライザを使って血液中にあるクレアチニン(Cre)や尿素窒素(BUN)などの老廃物やカリウム(K)やリン(P)などの電解質を除去し、カルシウムや重炭酸イオンなどの不足物を補充します。
透析を受ける主な疾患
糖尿病性腎症
・糖尿病の合併症により腎臓の機能が低下する疾患です。透析患者のうち、原因疾患で最も多いのは糖尿病性腎症(39.1%:2019年)になります。
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)
・腎臓にある糸球体に慢性的な炎症が起きる疾患です。透析患者のうち、原因疾患で糖尿病性腎症に次いで第2位(2019年)になります。
腎硬化症
長年にわたる高血圧により腎臓の血管の動脈硬化が起こり、腎臓の機能が低下する疾患です。進行していくと腎臓が硬く小さくなることにより腎不全になります。
ネフローゼ症候群
尿に大量のたんぱくが排出されることで、血液中のたんぱく質が減少し、全身にむくみが起こる疾患です。
腎臓の働きを知るには?
eGFR(推算糸球体濾過量)
腎臓の働きを知るには、腎臓が1分あたりにどのくらいの量の血液を濾過し、尿をつくれるかで推測することができます。 この指標を「eGFR(推算糸球体濾過量)」といいます。 eGFRは以下(①、②、③)より算出していきます。
①年齢 ②性別 ③血清クレアチニン(血液中の老廃物)
eGFRの正常:90 mL/分/1.73m²以上
CKD(慢性腎臓病)
蛋白尿などの腎臓の障害、eGFRが60mL/分/1.73m²未満の腎機能低下のいずれか、または両方が3カ月以上持続した状態になると慢性腎臓病(CKD)といいます。
慢性腎不全(透析導入):eGFRが15mL/分/1.73m²未満
慢性腎不全はCKDが進行した状態です。 eGFRが15mL/分/1.73m²未満のCKDステージ「G5」は『末期腎不全』と呼ばれ、この段階になると透析療法や腎移植が必要となります。
治療時間
回数:3回/週
時間:3-5時間/回
3-5時間以上は長いと感じるかもしれませんが、実は1分間に約200mlの血液を取り出しています。
血液透析のデメリット
物理的な拘束
基本的に決められた時間に決められた場所でしか治療を受けることが出来ません(旅行などで出先で透析を行う必要がある場合はその限りではありません)。そのことを週に3回、3−5時間受けることが生涯にわたって続くため、拘束感を感じる要因になります。
毎回の穿刺による痛み
血液透析では透析のたびに2本の針を腕に刺す必要があり、この穿刺により痛みを感じます。そのため、痛みを感じにくくするために、ペンレスと呼ばれる局所麻酔テープを穿刺部に貼付したり、穿刺する針をペンニードルタイプに変更するなどの方法があります。
身体への負担
1回の血液透析で2〜3日の間に貯まった水分や毒素を一気に取り除くため、腹膜透析と比べるとかなり負担がかかります。
食事制限
①エネルギー②水分③塩分④タンパク質⑤リン⑥カリウムなどの制限が必要になります。
①エネルギー摂取量:30 ~ 35 kcal/ 日(標準体重あたり)
②水分摂取量:500~600 mL+ 尿量
・DW(設定体重):水分(塩分)摂取量の基準
透析と透析の間隔が中 1 日の場合:DW 3%未満
透析と透析の間隔が中 2 日の場合:DW 6%未満
③塩分:6g未満
④たんぱく質:0.6~ 0.8 g/kg標準体重あたり/日
たんぱく 質摂取量増加に伴う血清リン値の上昇に注意します。
⑤血清リン値: 6 g 未満/日
⑥カリウム:1500mg/日
穿刺の方法
腕に2本の針を刺して、血液を体内から外部へ機械(ダイアライザ)を通して血液を循環させ綺麗にしていきます。
1回に2本の針(15Gから18Gが一般的*)を週に3回も腕の血管に刺されるため、透析を受けられるくらい丈夫な血管と毎回大きな針を刺すこと(穿刺)に耐えられること、容易に穿刺しやすいことなどからシャント(人工血管)を造設します。
*針のG(ゲージ)は値が小さくなると針が大きくなります。ちなみに採血の時は22G、点滴などの静脈留置などの時は22G〜24Gの針を使うことが多いです。そのため透析を受ける方は毎回大きな針で穿刺されているため苦痛を伴う治療になります。
透析治療による合併症
不均衡症候群
透析導入期によくみられる症状です。透析を行うことにより、体内の血液中の老廃物が急激に除去されてきれいになります。しかし脳内の老廃物は除去されにくいことから、体内の血液と脳との間に濃度差が生じます。そのため、脳内の老廃物を薄めようとして脳は水をどんどん吸収するため、脳がむくみ、脳の内圧が高くなることで引き起こされる症状です。身体が透析に慣れていけば徐々に起こりにくくなります。具体的な症状として、腹痛、吐き気、嘔吐などが挙げられます(透析中から透析終了後12時間以内)。予防するには、水分、塩分、タンパク質の制限を守ることで緩やかな透析を行えることや透析時間を長くするなどが挙げられます。
血圧低下
低血圧はもっとも発生頻度の高い合併症になります。透析での除水による循環血液量の減少に加え血管収縮力の低下や心機能の低下が挙げられます。特に血圧低下を起こしやすいには、高齢者、糖尿病、低栄養、貧血、心機能低下などが挙げられます。症状としては、あくび、吐き気、嘔吐、頭痛、動機、冷や汗などがみられます。予防するには、ドライウェイト(DW)を上げる、透析時の除水量を少なくする、バランスのよい食事をとるが挙げられます。
感染症
シャントの穿刺部から細菌が侵入して起こるシャント感染、尿量減少による尿路感染、肺炎などがあります。予防するには、シャント部は常に清潔を保つや十分な保清、栄養バランスを整えるなどが挙げられます。
治療費
血液透析は約40万円(1ヶ月)
腹膜透析は約30~50万円(1ヶ月)
助成制度
高額療養費制度
特定疾病療養受療証あるいは後期高齢者医療特定疾病療養受療証を取得することにより、自己負担限度額が1医療機関あたり月額1万円(高額所得者は2万円)になります。
身体障害者手帳
透析治療を受けている方は主に1級に認定されます(地域によっては認定の基準が異なります)。身体障害者手帳の交付により医療保険や自立支援医療の様々な助成を受けることができます。
統計
血液透析以外に腹膜透析という腹膜を使って老廃物や水分を除去する透析治療がありますが、日本では血液透析が主流となります。97.1%の透析を受ける方が血液透析を導入しています(2019年時点*1)。
参考/引用(当サイトが加工編集)
①日本透析医学会 II.2019 年日本透析医学会統計調査報告書 調査結果と考察(2021/09/27)
②一般社団法人 日本腎臓学会等 腎代替療法選択ガイド2020(2023/06/12)
③一般社団法人 日本腎臓学会 医師・コメディカルのための 慢性腎臓病 生活・食事指導マニュアル(2015)(2023/06/12)