JCS(ジャパン・コーマ・スケール)完全ガイド|現場ですぐ使える評価・記録・報告
JCS(ジャパン・コーマ・スケール)は、日本の医療現場で広く使われる意識レベル評価です。
「どの刺激で、どの程度まで反応するか」を軸に0〜300で表します。数が大きいほど重い状態です。
1. JCSの基本(3-3-9度方式)
考え方:
段階はI:刺激なしで覚醒/II:刺激で覚醒(やめると眠る)/III:刺激しても覚醒しないの3つ。それぞれ3項目に分かれ、合計9項目です(正常0を別枠)。
段階 | コード | 状態のめやす |
---|---|---|
正常 | 0 | 意識清明 |
I:刺激なしで覚醒 | 1 | 意識清明だが少しはっきりしない |
2 | 見当識障害あり(日時・場所・人) | |
3 | 自分の名前/生年月日がいえない | |
II:刺激で覚醒(やめると眠る) | 10 | 普通の呼びかけで容易に開眼 |
20 | 大声または身体を揺らすと開眼 | |
30 | 痛み刺激を加えつつ呼びかけると開眼 | |
III:刺激しても覚醒せず | 100 | 痛み刺激で払いのける |
200 | 痛み刺激で手足が動く/顔をしかめる | |
300 | 痛み刺激に反応しない |
表記例:「JCS 20」(必要に応じて「JCS II-20」を併記)
2. 付加記号(R/I/A)の付け方
- R:不穏(落ち着きがない、抜去傾向など)
- I:失禁
- A:自発性喪失
記載例:
・自分の名前が言えず不穏 → JCS 3R(=JCS I-3R)
・上に失禁もあれば → JCS 3RI(順序は施設方針に合わせて統一)
3. 評価の手順(弱い刺激から段階的に)
- 安全確認(気道・呼吸・循環)と酸素化の確保
- 刺激の段階づけ:呼びかけ → 大声・揺さぶり → 痛み刺激
- 反応の観察:開眼の有無と持続、運動反応
- 付加記号の確認:不穏・失禁・自発性喪失
- ベースラインとの差:普段の状態(例:普段JCS 0 等)と比較して記載
※痛み刺激は最小限・適切な強さで。不要な侵襲を避けます。
4. GCSとの違いと使い分け
グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)は開眼・言語・運動の3要素で詳細に評価します。
JCSは「開眼(覚醒)」に軸足を置き、短時間で情報共有しやすいのが強みです。
- 初期の迅速共有や病棟連絡:JCSが有用
- 外傷例や詳細評価・研究報告:GCSも併記
5. 臨床推論の流れ(評価→対応)
Step1|即時対応:SpO₂、血糖、体温、瞳孔差・麻痺の有無などを同時に確認
Step2|原因候補:頭蓋内(脳血管障害・頭部外傷など)/頭蓋外(低酸素・低血糖・電解質異常・感染・薬物など)に大別して考える
Step3|報告テンプレ:
「氏名・年齢、JCS 20(普段0)。呼びかけで開眼するがすぐ眠る。BP 132/76、HR 96、SpO₂ 96%(室内気)、BT 37.8℃、BS 58 mg/dL。神経学的巣症状なし。低血糖疑いにて対応中。」
6. 事例で練習(判定+理由つき)
事例1:普段JCS 0。声かけで反応なし。肩を軽く叩くとすぐ開眼・会話可。ただし刺激をやめると数十秒で眠る。
判定:JCS 10(=JCS II-10)
理由:軽い刺激で覚醒=II段階、刺激が弱い=10。
事例2:呼びかけ無反応。胸骨圧迫などの痛み刺激で手で払いのける。開眼はしない。
判定:JCS 100(=JCS III-100)
理由:刺激しても覚醒せず、痛みに最も強い防御反応=100。
事例3:覚醒して会話可だが、日時や場所を間違える。
判定:JCS 2(=JCS I-2)
理由:見当識障害あり、覚醒は維持=I-2。
事例4(付加記号):覚醒して会話可。落ち着きなく点滴を抜こうとするなど不穏。
判定:JCS 1R(=JCS I-1R)
理由:意識はほぼ清明(I-1)+不穏(R)。
事例5(ベースライン比較):普段はJCS 2(認知症で見当識低下)。今日は声かけに反応なし。肩を軽く叩くと開眼・会話可だがすぐ眠る。
判定:JCS 10(=JCS II-10)〈普段I-2〉
理由:刺激が必要=II段階、普段より悪化を必ず併記。
7. よくある誤りと回避ポイント
- 最初から痛み刺激 → 弱い刺激から段階的に
- 数値だけ記録 → JCS数値+付加記号+普段との差まで
- 見当識確認を省略 → I段階の評価誤りにつながる
- JCS単独で重症度を断定 → 必ずバイタル・神経所見と統合
8. 記録・報告テンプレ
看護記録例:
「JCS 20(呼びかけで開眼、刺激中止で入眠傾向)。Rなし。普段JCS 0。BP 132/76、HR 96、RR 18、SpO₂ 96%(室内気)、BT 37.8℃。BS 58 mg/dL。巣症状なし。安全確保し血糖補正を実施。」
医師報告テンプレ:
「○○さん、現在JCS 20、普段0。呼びかけで開眼するがすぐ眠ります。バイタルは…/血糖は…/神経所見は…。」
9. 注釈
- 付加記号の英語:R=Restlessness、I=Incontinence、A=Akinetic mutism。本文では日本語表記を基本とします。
- GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)は「開眼・言語・運動」の3要素で評価します。