シャント
人工的に作られた血管のことをシャントといいます。人工透析(血液透析)を受けるためにシャントが必要になります。血液透析では、身体の老廃物などを取り除くため、1分間に150mlから300mlほどの血液を透析の機械へ送る必要があります。そのためには、通常の静脈を流れる血液では十分な血流量が得られないため、動脈と静脈を繋ぎ合わせて静脈に大量の血液を流れるようにします。それがシャントになります。シャントの種類は2種類あり、内シャントと外シャントに分けられます。ちなみに内シャント、外シャント、カテーテル留置の3つを合わせてバキューラアクセス(VA)といいます。そのため医師記録に”VA作製”と書かれている場合は主にシャント造設のことを指します。
シャント(VA)造設術
手術時間
約1〜2時間ほどで終わります。
麻酔
局所麻酔で行われます。
シャント肢の選択
一般的には利き腕とは反対側の腕でシャント作成は行われます。
シャントの種類
シャントには大きく分けて2種類あり、1つが「内シャント」2つ目が「外シャント」になります。それぞれの特徴をみていきたいと思います。
内シャント
内シャントには、自分の血管を使う場合(AVF)と人工血管を使う場合(AVG)の2種類あります。ほとんどのシャントは内シャントで自己血管内シャント(AVF)が選択されます。
自己血管内シャント(AVF)
自分の血管を使ってシャントを作る場合を自己血管内シャント(AVF)といいます。大半のシャントは自分の血管を使って作られます。それは人工の血管を用いると身体からすると”異物”であり感染のリスクが高くなってしまいます。シャントは何年も何十年も維持透析をしていく上で必要なものであるため、自分の血管を使ってシャントがつくられます。
人工血管内シャント(AVG)
人工の血管を使ってシャントを作る場合を人工血管内シャント(AVG)といいます。グラフトとも言われます。大半は自分の血管を使ってシャント造設を行いますが、血管に問題があるなどの場合には人工血管が用いられます。人工血管は自分の血管に比べて、感染の危険が高いためやむを得ない理由でのみ用いられます。人工血管には色々な素材が使われており、 ePTFE素材やポリウレタン素材、PEP素材など、素材によって特徴があります。
外シャント
静脈と動脈を身体の外でつないだもの
身体の外でつないでいることから、損傷や感染のリスクが高くなります。また外観的なものもあり現在では外シャントを造設されるケースはほぼありません。しかし心臓が悪い方は内シャント作製することによって心臓に戻る血液量が増えるため、心臓への負担が増加します。そのため脱血側を動脈でつくる必要があります。動脈に透析の時に穿刺するのは大変であるため、動脈を皮膚表面に持ち上げる手術が外シャントになります。デメリットは皮膚の表面に動脈があるため、損傷や感染のリスクが高くなります。また止血に時間を要することや、動脈瘤などの血腫をつくりやすくなります。
シャントトラブルに対する治療
シャントPTA(経皮的血管形成術)
シャントの狭窄部や閉塞部に対して行う治療です。シャント内にカテーテルでバルーン(風船)を入れて膨らまし、血管を拡張します。そのことによりシャントの狭窄や閉塞を解消します。局所麻酔を使って行い、30分ほどで終わります。入院の必要もありません。同時に固まった血栓を取り除いたり血栓溶解剤で溶かしたりします。 シャントPTAは皮膚を切開することなく、針を刺すだけで治療が可能です。ただし、再発することが多いため、繰り返しの治療が必要になります。
血栓溶解法+シャントPTA
閉塞部に血栓溶解剤を注入して血管をマッサージします。その後、血流が再開したら上記のシャントPTAを行いシャントを確保します。
血栓除去術+シャントPTA
閉塞部の血栓を専用の風船を用いて掻き出して除去します。その後、血流が再開したら上記のシャントPTAを行いシャントを確保します。
シャント再建
シャントが狭窄したり閉塞した場合、そのすぐ上でシャントを作り直します。
シャントトラブルの予防
シャントの狭窄や閉塞
日常生活でシャント部に血液が途絶えるような習慣をやめる必要があります。具体的には以下のような項目が挙げられます。
・シャント側の腕で腕枕や手枕をしない。
・シャント側の腕に腕時計をしない。
・シャント側の腕で血圧測定をしない。
・衣類などで手首の圧迫を避ける。
また、シャント部を聴診器で確認することにより、正常に血液が流れているか確認することが可能です。自分自身でシャント部の確認を行うことでシャントに対する意識やシャントトラブルが起きていないかセルフモニタリングすることが可能になります。
「東京医科大学病院の腎臓内科」のHPに
シャント音の正常/異常を音声で公開されています。
シャント音を聞いたことない場合など実際に音声を聞くと非常にイメージしやすいと思いますので参考にどうぞ。
シャントの感染
シャント部の感染は敗血症のリスクなど時に命の危機になりえます。そのため日頃からシャント側の手洗いを十分に行い清潔を保つ必要があります。また、シャント部の皮膚に傷や皮膚かぶれ、発疹などができるとそこから皮膚トラブルになり感染のリスクが高まるため、異常があった場合は受診し適切に処置を受ける必要があります。シャント部が感染すると、シャント部の痛みが出たり、赤みが出たり、腫れ上がったり、熱を持ったりします。その場合も受診し適切に対応をしていく必要があります。
シャントの出血
透析では抗凝固薬を使用するため、出血しやすくなります。そのため出血する機会(シャント肢をぶつけるなど)をなくすことが必要になります。もし出血した場合は圧迫止血により、必ず止血を確認していく必要があります。