心筋梗塞
狭心症が進んで冠動脈が完全に閉塞し、心筋への血流が途絶え心筋が壊死してしまう状態を心筋梗塞といいます。その結果、持続する胸痛や放散痛(肩、背中、みぞおちなど)など心筋梗塞の症状が起こります。一度細胞が壊死すると2度と元の状態に戻らないため、迅速な対応が必要となります。
分類
急性心筋梗塞(AMI)
発症後、3日以内の心筋梗塞を指します。急性心筋梗塞(AMI)の中でもST上昇型心筋梗塞(STEMI)と非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)に分類され、ST上昇に伴う心筋梗塞は冠動脈の完全閉塞により、心筋壊死を示すため早急な対応と治療が必要になってきます。
亜急性心筋梗塞(SMI)
発症後、1ヶ月以内の心筋梗塞を指します。
陳旧性心筋梗塞(OMI)
発症後、1ヶ月以降の心筋梗塞を指します。
入院期間
2週間
急性心筋梗塞でPCIを行い、合併症がなく経過した場合は2週間ほどで退院となることが大半です。
原因
動脈硬化
主な原因は動脈硬化になります。動脈硬化により冠動脈が硬くなったり、冠動脈の血管壁にコレステロールなどのプラークが付着することにより血管が狭くなります。そのプラークが突然解離すると血栓ができ冠動脈が詰まることにより心筋に血液が供給できなくなります。そのことにより心筋が酸素不足になり心筋が壊死します。
脂質異常症
糖尿病
高血圧
加齢
喫煙
運動不足
肥満
ストレス
症状
30分以上続く激しい胸痛(ニトログリセリンが効かない)
半分以上の症例では、前駆症状として4週間以内に狭心症発作がみられています。
呼吸困難
意識障害
血圧低下
検査
心電図検査
ST上昇、冠性T波、異常Q波が見られます。
血液検査
心筋傷害マーカーが上昇します。具体的には以下の項目を確認していきます。
・心筋トロポニンT
心筋細胞の蛋白質の1つで、発症後3時間経過すると陽性となります。
・CPK(クレアチンホスホキナーゼ)
細胞内の酵素で、CK-MM(骨格筋)、CK-MB(心筋)、CK-BB(脳)の3つの酵素があります。この中で特にCK-MBは心筋に多く含まれているため大切な指標になります。
・CK-MB
心筋に多く含まれており、発症後3時間〜8時間で上昇し、12時間〜24時間するとピークを迎えます。
・H-FABP(心臓型脂肪酸結合蛋白)
心筋細胞に多い蛋白質で、発症後2時間以内の急性期の診断に有効となります。
・ミオグロビン
胸部レントゲン検査
梗塞に伴う心不全の合併や大動脈解離との鑑別に用いられます。
心エコー検査
梗塞に伴う心収縮能低下や機械的合併症の有無を判断するために用いられます。
合併症
不整脈
心室細動(VF)、心室頻脈(VT)、房室ブロック、心房細動(AF)、洞徐脈、心室期外収縮(VPC)などが挙げられます。
機械的(手術操作に伴う)
心破裂(心タンポナーデ)、心室中隔穿孔(VSP)、乳頭筋断裂(僧帽弁閉鎖不全症:MR)などが挙げられます。
心不全
左心不全(肺うっ血)、右心不全(右室梗塞)、心原性ショックなどが挙げられます。心筋梗塞から心不全を合併した場合はフォレスター分類やノーリアスティーブンソン分類が用いられます。フォレスター分類は肺静脈カテーテルを留置するため侵襲性が高いため、近年はノーリアスティーブンソン分類が用いられています。
血栓塞栓症
脳梗塞などが挙げられます。
心膜炎
治療
心筋梗塞は診断と初期治療を迅速に行なっていく必要があります。初期治療には「MONA」が行われます。
M(塩酸モルヒネ)の投与(静脈注射)
胸痛を軽減させたり、心筋の酸素消費量を抑制します。また末梢血管を拡張させます。ただし血圧低下に注意します。
O(酸素)の投与
心筋虚血からくる障害を軽減します。冠動脈の酸素供給の低下は、心筋の虚血や壊死を拡大させ状態が悪化する恐れがあるため、発症から6時間以内は酸素投与が推奨されています。
N(硝酸薬)の投与
胸痛を軽減させたり、前負荷や後負荷を軽減させます。胸痛から不安や恐怖が増大すると、交感神経が刺激され心拍数や収縮力増加につながり、心筋の酸素消費量を増加させます。そのため第一選択で硝酸薬が投与され、持続する場合には塩酸モルヒネを投与します。ただし血圧低下に注意します。
A(アスピリン)の投与
血小板の凝集を抑制します。このことにより心臓突然死などの冠動脈イベントの減少に効果があります。そのためアレルギーや出血性病変がない限り、速やかに投与を開始していきます。
上記の初期治療を行い、確定診断がつき次第、冠動脈の再灌流療法を実施していきます。具体的には以下の項目が挙げられます。
経皮的冠動脈形成術(PCI)
発症後12時間以内であれば、速やかに行なっていきます。
血栓溶解療法
発症後12時間以内で上記のPCIが行えない場合に行なっていきます。
冠動脈バイパス手術(CABG)
上記のPCIが成功しなかった場合やPCIや血栓溶解療法が適応でない場合に選択されます。冠動脈の狭窄部より末梢と大動脈を繋ぎ合わせ、末梢血流を確保する術式になります。
薬物療法
①抗狭心症薬
β遮断薬、硝酸薬、Ca(カルシウム)拮抗薬
②抗血栓薬
抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル:ステントを留置する場合に)、抗凝固薬(ヘパリン)
③降圧薬や脂質異常症に対する治療
スタチン、ACE阻害薬、ARBなどが選択されます。
ケア
状態観察
胸痛のほか、動悸、呼吸困難感、発汗、冷感、悪心、喀痰などの症状を観察し、心筋梗塞の悪化や合併症の出現などの徴候を観察していきます。また症状以外にも心電図のモニタリングを行い、不整脈の有無についても観察を行なっていきます。
症状緩和
胸痛や呼吸困難感の苦痛を最小限の緩和していきます。
心身の安静を図れるようにする
労作や不安などによる交感神経への刺激は、心筋の酸素消費量を増加させるため、心筋壊死の範囲を拡大させることにつながります。そのため不必要に酸素消費を高まることのないように、心身の安静が図れるようにしていきます。
生活の再構築
急性期を脱すると自覚症状がほとんどなく、その他の障害を確認することができない場合は「完治した」と錯覚するため、その人の心機能を超えた活動に結びつきやすいため、活動量や負荷の程度を把握する必要があります。また心筋梗塞の主な原因が動脈硬化であるため、食生活や運動習慣の見直しを行い再発や合併症が予防できるようにしていくことが望まれます。